羽田飛行場でウィリアム・ホールデンと。
一月三十一日午後一時二十五分。
羽田着パン・アメリカンでホールデン夫妻とジェニファー・ジョーンズが姿を見せた。
ヘンリー・キング監督「多くの素晴らしいこと」(慕情)の香港ロケ途上の来日だ。
ホールデンはすでに来日4回目。夫人のブレンダ・マーシャルは戦前ずっと前に一度旅行途中で
日本に寄った事があるそうだ。
ジェニファーは四年前に一度。これは米軍慰問で殆ど日本人の公席には姿を見せないで帰ってしまった。
「トコリの橋」が封切り近いというときに現れたホールデン。香港ロケがすめば必ず再び立ち寄って
「トコリの橋」公開の舞台に立つ事だろう。
ジェニファーは「ルビイ」が最近封切られたが、なんといっても「白昼の決闘」の強烈な印象が
ファンの心を捕えている。
そんなわけで、この日の羽田は快晴。
到着時間もろくに公表されなかったのに羽田は若いファンでごった返していて、ホールデン夫妻が姿を見せた時の叫聲は大変だ。
ところがジェニファーは地味な黒いコートで下りて来たので一瞬誰も気づかない。カメラの前を彼女が通り過ぎる。
誰もその彼女を追わないで、その彼女から五、六人目に夫婦で下りてきたホールデンにワッとむらがった
その時のジェニファーは振り返って私は?という顔つき。
ところが税関室まできて、ファンもカメラも彼女こそジェニファーと解るや今度は彼女に殺到。
というところだが本人はガラス向こうの税関室。
そこでガラスの前から彼女の一挙一動に唯もうファンはキャーッの連発。
その日の午後四時半。日活ホテルで記者会見だ。ホールデンといかにも大人しそうな親しみのあるブレンダ夫人。
黒衣に真珠の首飾りの美しいチャーミングなジェニファー。
カメラ、カメラ。ジェニファーは愛想よく笑っていたが、そのポーズに疲れて泣きそうな顔を二度ばかり見せてしまう。
「日本での私の希望・・・私は自分の息子に是非日本のカメラをお土産に買って帰りたい」と美しく笑った。
それから真顔になって「京マチ子さんに会いたい。あの方は立派な芸術家です」ジェニファーは絢爛とした美しさで京マチ子を
そう褒めたたえた。
ホールデンは今年のアカデミー予想を一つ。 彼は口を曲げて弱ったという顔つきで「主演女優はグレース・ケリーかジュディー・ガーランド。
男優はビングかマーロン・ブランド。作品は・・・」
と云いかけて「これは止めて頂こう」と苦笑いした。
その質問の間中、夫人のブレンダさんは少し下向きかげんに自分は目立たぬように、というしとやかな様子が實に美しい。
カメラが林のようにフラッシュがイルミネイションのように。
ジェニファーは、それに悩まされ、自分の前三尺に取り囲むカメラマンたちを眺めまわし、ついに自分のテーブルの大きなサンドイッチの
銀盆を捧げて「お一ついかが」と右に左にすすめている。
羽田ではジェニファーさんに安田響子さんから花束を贈っていただき、ホールデン夫妻には松竹新人の雪代敬子さんから花束を贈っていただいた。
贈られた 相手以上にそれぞれお二人は感激の様子。
四年前にジェニファーに帝国ホテルで逢った事を話すと、彼女は詳しくその日の事を覚えていて、その時の美しかった花の色まで覚えていてくれたのに
驚いた。